エンジンは多い方がいい?フォールト・トレラントという考え方

こんにちは。今日は飛行機の安全性について考えていきましょう。

 飛行機は離陸してから着陸するまでの間に機体に何らかの不具合が発生した場合、基本的には飛行中にそれを修復することはできません。不具合箇所がエンジンなどの機体の外側であればどんなに優秀な整備士が搭乗していても不可能でしょう。そのためパイロットはある一定以上の不具合を抱えている飛行機を空に飛ばすことはしません。飛行機には、例え空中で機体の一部に不具合が発生しても確実に地上に搭乗者を無事帰還させることが求められます。

 例えば飛行機のエンジンを考えてみましょう。多くの旅客機は2基から4基の複数のエンジンが搭載されていますね。これは推進力を得るためや左右バランスのためなどの理由もありますが、複数のエンジンを装備する最も大きい理由は “一つが故障しても他のエンジンで地上まで安全に飛行を継続できるように” という安全のための考え方があります。この考え方を “フォールト・トレラント” と言います。

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フォールト・トレラントは日常生活にいっぱい

 フォールト・トレラントはあまり聞き馴染みがないですよね。英語では”Fault Tolerant”と書き、障害への寛容性・耐性といった訳でしょうか。フォールト・トレラントとは、システムの一部に問題が発生しても全体が機能停止することなく動作し続けるシステムのことを言います。

 例えば、病院の電源システム。病院には人工呼吸器など停電によって停止してしまうと人命が即座に危うくなる機械がたくさんあるため、自家発電やバッテリーなどで停電に備えています。電力会社からの電力供給が何らかの理由で失われても自家発電などで医療機器が正常に作動するシステムを構築しているわけですね。

 これと同じようなフォールト・トレラントの考え方が旅客機にもたくさん取り入れられています。旅客機も病院と同じく、不具合が起きると人命が即座に危うくなります。旅客機のフォールト・トレラントのわかりやすい例がエンジンでしょう。エンジンは旅客機の最も重要な構成部品の一つです。エンジンがなければそもそも旅客機は離陸することができませんし、空中でその機能が失われれば飛行機は推進力を失い最悪の場合、墜落や不時着といった危機的な状況になります。もしエンジンが一つしかなければ、そのエンジンが飛行中に故障して停止した場合に即座に悪夢のような事態に陥るでしょう。しかし2つあれば一方が停止してしまっても、もう一方のエンジンで最寄りの空港への安全な飛行が可能になります。「2つとも停止したらどうするの?」という疑問も持つ方もいると思いますが、2つのエンジンが同時に停止するというのは確率的には極めて稀なケースです。(無くはないですが…)

 ではエンジンは多ければ多いほど安全でいいじゃないか。2つより3つ。3つより4つつけた方がいい!という発想になりますが、フォールト・トレラントの考え方の欠点として、コストがかかるという問題点があります。

フォールト・トレラントとコスト

 通常、その辺りの道路を走っている自動車にはエンジンは一つしかついていません。これは走行中にエンジンが故障しても車はその場で止まって動けなくなるだけで人命に関わる致命的な事態に陥ることがほとんどないためです。止まってしまった車は日本国内であれば、レッカー車を呼べば数時間もせずに助けが来るでしょう。稀にエンジンが2つついている車もあるそうですが、要人輸送などの重要な任務のためのもので一般車にエンジンを複数搭載すれば車体も大きくなるし車両価格も跳ね上がる。燃費も整備性も悪くなってしまいます。ごく稀にしか起きないエンジン停止、かつ停止したとしても人命に影響がないのであれば、自動車に関しては1つのエンジンで万が一の故障が発生した時に対処した方がコストと安全性のバランスが取れていると言えます。

 同じように飛行機のエンジンも増えれば増えるほど安全度は増しますが、同時にコストも上がっていきます。エンジン自体の値段で言えば、一般的な中型旅客機のエンジンは1基20億円程度かかります。エンジン2基とエンジン4基の旅客機ではその整備にかかるお金は単純に倍になるでしょう。また飛行機の燃費もエンジンが増えれば一般的に悪くなります。

 フォールト・トレラントのシステムにはコストの問題がついてまわります。重複する余剰な部品で機能が二重化されている状態のことを”冗長性”(じょうちょうせい)と言います。冗長性があると確かに、一部に問題が発生した時の解決に有効ですが、費用対効果の観点からコストの面で問題が起きます。飛行機であればエンジンが6基ついていてめちゃくちゃ運賃が高い飛行機に乗りたいか、エンジン2基でほどほどの運賃の飛行機に乗りたいか。ちなみに最近はB747などの4発エンジンを持つ飛行機は廃れ、2発のエンジンを持つ旅客機が主流です。これは昨今の飛行機のエンジンが昔と比べて性能も良く、エンジン停止といった事態に見舞われるケースがほとんどないためです。フォールト・トレラントの観点から飛行機の場合、エンジンがこれ以上減っていくことは考えにくいですが、より信頼性のあるエンジン、あるいは何らかの技術革新があれば旅客機のエンジンが1基になることもあるかもしれませんね。

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