こんにちは!
今回は2009年3月20日に大阪・伊丹空港で起きた航空重大インシデントについて見ていきましょう。
重大インシデントとは事故にはなっていないけど、重大事故につながりかねなかった出来事を言います。
次に同じ状況になったときにこの経験を活かせるように運輸安全委員会が原因を調査し、調査結果は再発防止のために活用されます。
この記事では運輸安全委員会の航空重大インシデント調査報告書を元に記述しています。
インシデントの概要
2009年3月20日の重大インシデントは伊丹空港の滑走路上で起きました。
滑走路は離陸や着陸をする飛行機が高速で行ったりきたりする危険な場所です。
安全のため「同時期に滑走路を利用できる飛行機は1機だけ」というルールがあります。
今回のインシデントはそのルールに反し、到着機と出発機の2機が同時期に一本の滑走路を使ってしまった事象になります。
2009年3月20日午前9時ごろ、JALエクスプレス(JEX)2200便が伊丹空港への着陸のためRWY32Lへ進入中。
地上では同じ滑走路からの離陸のため、全日本空輸(ANA)18便が滑走路の手前の誘導路で離陸の順番を待っていました。
すると滑走路を管轄する管制官から「離陸の準備はできていますか?」と聞かれる。
離陸準備が整っていたANA18は「できている。」と回答。直後に管制官から滑走路への進行と離陸許可が発出される。
ANA18が離陸のため滑走路に入ると、同じ滑走路への着陸許可を同時期に発出されたJEX2200から管制官へ「滑走路上に航空機が見えるが、着陸許可は正しいものか?」と問い合わせが入る。この時、JEX2200はあと1分で着陸という位置を飛行していた。
程なくして管制官がJEX2200へゴーアラウンド(着陸のための進入を止め高度を上昇させること)を指示し、地上のANA18との衝突は回避されました。
原因はどこにあったのか?
今回のインシデントは着陸体制にあったJEX2200の前方にANA18が割り込む形で滑走路に進入してしまい、衝突まであと1分という状況にありました。
問題の原因は管制官とのやりとりに隠されていました。
実はANA18に便名がそっくりな飛行機が同じ周波数に存在しました。
その航空機のコールサインはANA181(All Nippon one-eight-one)という飛行機です。
ANA18(All Nippon one-eight)とANA181(All Nippon one-eight-one)。
名前がそっくりだねぇ(||゚Д゚)ヒィィ
こういった名前が似通ったコールサインのことを【類似コールサイン】と呼びます。
一つの周波数の中に類似コールサインの飛行機がいると間違いが起きる原因になります。
実際の管制官とのやりとり
ここでは運輸安全委員会の報告書に記録されたインシデントが起きた時間の管制官とパイロットとのやりとりを記載しています。直接インシデントに関係していないと思われる航空機との会話はカットしていますのでご了承ください。
Osaka Tower, Janex two-two-zero-zero, one-eight miles on final.
(JEX2200 : 大阪タワー、JEX2200です。最終進入コース上18マイルの位置を飛行中。)
Janex two-two-zero-zero, Osaka Tower, report five DME, runway three-two-left, QNH two nine nine zero.
(TWR:JEX2200, こちら大阪タワー、5NMの地点で通報してください。滑走路32L、QNH2990。)
ーーータワーは他機と交信ーーー
Osaka Tower, All Nippon one-eight-one with you, ready for departure.
(ANA181 : 大阪タワー、ANA181です。離陸準備完了です。)
TWR: All Nippon one-eight-one, Osaka Tower, roger.
(TWR:ANA181, こちら大阪タワー、了解。)
TWR: All Nippon one-eight-one, confirm ready for departure?
(TWR:ANA181, 確認です。離陸準備完了?)
ANA181:All Nippon one-eight-one, affirmative.
(ANA181 : ANA181, そのとおりです。)
ANA18: Affirmative, All Nippon one-eight.
(ANA18 : そのとおりです。ANA18。)
この9時19分58秒の交信でANA181だけが応えるべき質問に同時にANA18が応えてしまっています。コールサインが類似していることに起因する間違いと推定されます。これに対し管制官は、
All Nippon one-eight-one, runway three-two-right, line up and wait.
(TWR: ANA181, 滑走路32Rへ進行し、滑走路上で待機してください。)
管制官もパイロットたちもANA18が間違えて話していることに気づかず、管制官はANA181に滑走路上への進行を許可しています。
ANA181: Three-two-right, line up and wait, All Nippon one-eight-xx….
(ANA181 : 滑走路32Rへ進行し待機。ANA18xx… )
ANA18: Three-two-left, line up and wait, All Nippon one-eight.
(ANA18 : 滑走路32Lへ進行し待機。ANA18。)
管制官から指示を受けているわけではないANA18は引き続き、ANA181と同時に管制の指示に応えてしまっています。
しかも管制官は滑走路32R(Right)上への進行を許可しているが、ANA18は自分の目の前の滑走路32L上への進行を許可されたと思い込んで滑走路32L(Left)と復唱しています。
ANA18の送信は信号強度が微弱で管制官が気づくことはできませんでした。
All Nippon one-eight-one, traffic four mile for runway three-two-left, wind three five zero at eight, runway three-two-right, cleared for take-off.
(TWR: ANA181, 滑走路32Lへの到着機があと4マイルの地点にいます。風は350°から8ノット、滑走路32Rからの離陸を許可します。)
All Nippon one-eight-one, three-two-right, cleared for take-off.
(ANA181: 滑走路32R、離陸します。)
この時はANA181の方だけの復唱だけが記録されていました。
この後、タワー管制官は滑走路32Lへの到着機JEX2200に着陸許可を出してしまいます。
着陸許可が出された滑走路上で待機しているANA18はここで異常な状態にあることを認識します。
本来、自分たちが使用している滑走路に着陸の許可が出されるはずはないからです。
Janex two-two-zero-zero, runway three-two-left, cleared to land, wind three five zero at one four.
(TWR: JEX2200, 滑走路32Lの着陸を許可します。風は350° 14ノット。)
ANA18コクピット内: あれ?えっ、ちょっと待って。
Janex two-two-zero-zero, confirm cleared to land ? We have traffic in sight on the active.
(JEX2200: 確認します。着陸許可でよろしいのですか?滑走路上に航空機が見えますが。)
Roger, make ……, stand by, All Nippon one-eight-one cancel departure clearance, hold position.
(TWR: 了解…ちょっと待って…ANA181, 離陸許可を取り消します。現在地で待機してください。)
All Nippon one-eight-one, hold position.
(ANA181, 現在地待機。)
ANA18コクピット内: ウチですよね。
Janex two-two-zero-zero, go around.
(TWR: JEX2200, 復行して下さい。)
Going around, Janex two-two-zero-zero.
(ゴーアラウンド。JEX2200。)
All Nippon one-eight, hold position.
(TWR: ANA18, 現在地で待機して。 )
All Nippon one-eight, hold.. hold position.
(ANA18, 現在地で待機します。)
到着機は滑走路32Lへの進入を中断し高度を上昇させました。
地上の出発機も地上で待機させたのでこれで一旦、航空機同士の衝突という最悪の事態は避けられました。
コメント