小型機の割り込み?2015年鹿児島空港でのニアミス事案

こんにちは。

今回は、2015年の鹿児島空港で発生した、着陸のために滑走路へ向けて降下中だった旅客機の前方に小型の飛行機が割り込み異常接近した事案を紹介します。

空港周辺は離陸や着陸をする飛行機が集まる混雑した場所です。それだけに事故の多くは空港周辺で発生することが多いのです。最近では、2025年1月29日にワシントンの空港でアメリカン航空5342便が陸軍のヘリと空中衝突する事故がありました。空は広くても空中衝突やニアミスは珍しいことではありません。

2015年10月10日鹿児島空港周辺での出来事

2015年10月10日(土)、日本航空のB767-300型機が鹿児島空港に向けて最終進入中、小型機の新日本航空所属ブリテン・ノーマン式BN-2B-20型アイランダー(JA80CT)が左前下方から進入経路に割り込む形で接近してきたため、復行により回避した。

小型機がJAL機の前に割り込んでしまったのは小型機のパイロットが管制官の情報と指示を正しく理解しておらず、本来の順位より先に滑走路へ向かう飛行を行なってしまったためである。

JAL B767-300型機(インシデントの機体と同型機)

上の画像はA機(JALのB767-300型機)の同型機です。200人前後の旅客を乗せることができ、旅客機としては中型機に分類されます。

画像:ブリテン・ノーマン公式HPより

上の写真が小型機アイランダーです。数人乗りの小型機でアイランダー(:Islander )の名の通り、島と島の間を結ぶ飛行機として設計された飛行機です。離島との路線で国内でも使われることがあります。

目次

インシデントの概要

インシデント当時、鹿児島空港周辺を飛行していた航空機は次の図のように飛行していました。

  • A機 JALのボーイング767型機(定員200人前後)
  • B機 新日本航空の小型機(定員数人)
  • DHC-8型機(ダッシュ8)
  • 旋回するヘリコプター
出典:運輸安全委員会航空重大インシデント調査報告書よ

次の「空の安全飛行ちゃんねるさん」のYoutube動画が状況をとてもわかりやすくまとめてくれています。

インシデント時の流れ

当時、鹿児島空港は滑走路34で運用しており、到着機は全て空港の南側に回ってから滑走路へ向かっていました。

鹿児島空港の管制官は次のような順番で飛行機を着陸させようとしていました。

  1. ショートファイナルのDHC-8型機
  2. 最終進入コース上にいるJAL機(A機)
  3. 空港西側ダウンウインドレグで旋回待機している小型機(B機)

滑走路の最も近くにいるDHC-8型機(図の青色)を着陸させ、2番目にA機(JALのB767型機)、3番目に空港の西で待機しているB機(新日本航空所属の小型機)を着陸させようと考えていました。

管制官はB機に対し、「先行機は最終進入コース上、13マイルにいるB767型機(JAL機)です」と情報を伝えました。

管制塔

B機は空港の西側で待機してください。あなたの先行機は最終進入コース上、13マイルにいるB767型機(JAL機)です。

B機(小型機)

了解です。探します。

🤖:1分ほど経過した後、管制官は待機中のB機にもう一度、先行機の情報を伝えます。

管制塔

先ほどの先行機は最終進入コース上、9マイルになりました。この飛行機を見つけたら連絡してください。

B機(小型機)

最終進入コースの飛行機を見つけました。

管制塔

その飛行機に続いて飛行してください。

管制官は「最終進入コース上9マイルの位置にいる2番目の到着機であるA機(JAL)に続いて飛行してほしい」という意図でB機(小型機)に指示をしました。しかしB機(小型機)が追いかけていた飛行機は、管制官が意図したものとは異なり、滑走路から1マイルの位置を飛行していたDHC-8型機でした。

これにより管制官のプランでは3番機にするはずだったB機が2番機のA機(JAL)の前に割り込む形になってしまい、両機は接近することになりました。

JAL機と小型機の再接近時の距離は、

  • 水平距離:約10m
  • 高度差 :約80m

だったそうです。80mは警視庁ビルの高さくらいの差です。空中で小型機と旅客機がここまで接近していたと思うと怖いですね。

接近後の対処

接近の際、JAL機の機長は小型機の動きを接近前から注視していたため、小型機が自機の進路に割り込んで接近する状況をいち早く認識できていました。このあたりのJALのパイロットの状況認識力はさすがと言えるものです。

ニアミスの際、当事者が状況を正確に認識できているかどうかで回避操作への応答速度が全く変わります。数秒の遅れが命取りになりうるニアミスにおいて、JALのパイロットが冷静に状況認識をしていたことは不幸中の幸いであり、表彰ものの価値がありました。(本当に表彰されているかもしれません)

話は変わりますが、2024年の年初に羽田空港でJAL機と海上保安庁機の地上衝突事故がありました。あの事故も管制官・JAL機・海保機の誰かが状況を正確に認識することができていれば防ぐことができた事故でした。しかし事故が起きる時は全ての防波堤をすり抜けてしまうものです。

  • 海保機が滑走路の侵入許可の有無を確認していれば
  • 管制官が滑走路上の海保機に気づいていれば
  • JAL機が海保機を目視できていれば(夕方でも日の光がある季節だったら)

あとで言っても起きた事故を無かったことにはできませんが、この事故の経験を次の安全に繋げていかなければなりませんね。

話を戻しまして、

鹿児島空港での事案ではJAL機は自身の進路に割り込んできた小型機を注視しながら管制塔の指示を待っていました。空港周辺の航空機をどこに飛行させるかを決定するのは管制官の役目だからです。しかし小型機との速度差が大きすぎて急速の接近したため、JAL機は独自で上昇を決断しました。

管制官は小型機の方に左に曲がって西へ逃げるように指示。またJAL機が背後から上昇して接近していたため、小型機には高度を上げないように指示をしていました。管制官のこの指示はとても適切なものでした。特に高度を上げないように指示したのはJAL機の逃げ場を増やすことにつながるためファインプレーです。あとで検証すれば当たり前のことですが、飛行機同士が接近している緊迫した状況で冷静に的確な指示を出せるのは日頃の訓練の賜物と言っていいでしょう。

JAL機のパイロットはこの管制官から小型機への指示もよく聞いていて、JAL機は上昇し続けることで小型機から鉛直方向に距離をとることに成功しました。

間違いは起きないことが一番ですが、日頃からいざという時のことを想定して業務に臨んでいた職人たちの努力の成果が出た回避操作だったと思います。いざという時に本領を発揮するのって本当に難しいですからね。

どうすれば防げたか

今回の件で管制官が小型機に出した先行機の情報自体は的確なものでした。

しかし小型機のパイロットは、本来ついていくべきJALのB767型機ではなく、今まさに着陸しようとしていたDHC-8型機に続いて進入してしまいました。

これは小型機のパイロットが、

  • 関連機の位置情報 (滑走路から1マイル(約1.8km)の航空機と9マイル(約17km)の航空機)
  • 関連機の航空機型式

この2つの情報をきちんと理解できていなかったことが原因だと考えられます。

位置も全く異なる2機で航空機型式もB767型機がおよそ全長55mのジェットエンジン、DHC-8型機は全長30m程度のプロペラエンジン搭載の飛行機です。大きさが2倍近く違う上に片方はプロペラ機ですから管制官の情報を理解できていれば間違える可能性は低い状況だったのではないかと思います。

管制官側の反省点

一方で管制官側の出した関連機情報も小型機のパイロットが間違いを誘発しうるものでした。最終進入コース上に複数の飛行機がいる状況で「その飛行機に続け」という指示は、「その飛行機」がどれを指すのか管制官とパイロットで一致していないと成立しません。

また管制官が追いかけるように指示したJAL機はまだ十数km離れた場所におり、空港の西側を飛行している小型機のパイロットからするとよく探さないと見つけられない距離です。それよりも滑走路から2km程度の位置にいて見つけやすい飛行機に意識がいってしまったのは、人間の特性上起こりやすいことだったと考えられます。

特にパイロットは操縦をしながら管制官の指示に従わなければなりません。別の作業をしているときに話しかけられると理解力が落ちるのは想像に難くないですね。だからこそ管制官は小型機に明確な指示を適切なタイミングで出す必要がありました。「小型機が追いかける飛行機を取り違える可能性があるかもしれない」という想像をすべきでした。

▼この事案を受けて管制官の今後の対処はこう変わるのでは(以下、筆者の妄想です)

管制官👨‍🏭「先ほどの先行機は最終進入コース上、9マイルになりました。この飛行機を見つけたら連絡してください。」

——-▼▼▼管制官の心の中▼▼▼——–

😈(ウヘヘッ!JAL機に続けって言っちまえば小型機が自分でタイミングを見計らってJAL機の後ろを追いかけてくれるんだぜ。だから早めに「先行機に続け」って言っとこうぜ!早いとこタスクを処理して4番目のヘリコプターをどうするか考えようぜ!)

👼(ダメよ!今、それを言ったら小型機のパイロットがDHC-8機とJAL機を勘違いして滑走路に来ちゃうかもしれないわ!パイロットを信用しないわけじゃないけど、念を入れてJAL機がもっと近づいて勘違いする可能性がなくなるまで小型機は待機させておきましょう。ここは危険が潜んでいるポイントだからヘリのことは後回しでいいわ!)

——-▲▲▲管制官の心の中▲▲▲——–

管制官👨‍🏭「(そうだな👼)」

小型機🛩️「最終進入コースの飛行機を見つけました。」

管制官👨‍🏭「了解しました。滑走路へ向かうタイミングはこちらで指示します。あと2分待機してください。」

っと、なるかもしれませんね。

小型機の機長を取り巻く環境について

このインシデントの報告書には、

本重大インシデント発生日の午前中、(小型機の)機長に心理的な影響を与える出来事があり、機長は当該飛行を中止することも考えたが、最近の飛行経験を充足する必要性等から飛行することとした

という記述があります。

このインシデントの発生に直接的な影響を与えたかはわかりませんが、小型機の機長は心理的に負荷がかかった状態でのフライトだったようです。

人間誰しも調子のいい時もあれば悪い時もあります。私生活で受けた精神的影響を引きずったまま仕事に行った経験は誰しもあると思います。

そういったいつもと違う精神状態の時は仕事のミスが起きやすいです。特にパイロットなどの人命に関わる仕事の方はミスが許されないため、自分の精神状態をよく注視しながら仕事に臨めるかを総合的に判断する必要がありそうですね。

2025年1月のアメリカ・ワシントンでの衝突事故との類似点

アメリカの現地時間2025年1月29日午後9時ごろにワシントン近郊のロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港付近で、着陸寸前のアメリカン航空5342便(ボンバルディア CRJ-700型機)と、アメリカ陸軍のフォートベルボア基地第12航空大隊B中隊所属の「ブラックホーク」ヘリコプター(UH-60)が空中で衝突し、ポトマック川へ墜落した事故がありました。

画像:NHKサイト

原因究明中の事故ですが、今のところアメリカン航空の旅客機は通常の飛行ルートを通っており、ヘリコプターの飛行ルートが適切であったかが焦点になりそうです。その時の管制官とのやりとりも一部報道されていますが、ヘリコプターが管制官の意図と違う飛行をしていた可能性も指摘されています。

またこの事故の前にも接近事案が報告されている危険な状況だったことも指摘されています。通常、大きな空港の旅客機の着陸経路はその他の飛行機は飛行を制限されているはずですが当時の状況がどのようなものだったのか続報が待たれます。

管制官の指示は適切だった

管制官はヘリコプターに対し、

「CRJ機は見えるか?その後ろを飛行してください」

という通信をしていました。ヘリコプターのパイロットはそれに対し、

「見えている」という返答をしています。このやりとりはパイロットと管制官でよくある会話です。

見えているものにぶつかってしまったのは、

・距離の目測を誤ってしまったのか

・パイロットが見ていた飛行機が衝突したCRJ機ではなく、別の飛行機だった

これらの可能性があります。別の飛行機を見ていると他の飛行機への監視がおろそかになり、CRJ機の接近に気づかなかったと考えられます。

今回の事故は、夜間に発生しているため、どちらの可能性も高いです。夜間は着陸灯などのライトで飛行機の存在自体は認識しやすいですが、それがCRJ機かどうかなど機体の種類を認識するのは極めて困難です。正直、ヘリコプターパイロットが機体の種類を確たる自信を持って認識できていたとは思えません。そのため、管制官の意図した飛行機とヘリコプターパイロットの認識した航空機が合致していたかは、一つのポイントになりそうです。

また距離の目測を見誤った可能性も高いです。夜間は飛行機のライトが飛行機の存在を認識する手段ですが、昼間よりも距離を目測するのが難しいです。

まとめ

航空機事故の半分以上は空港周辺で発生します。だからこそ管制官も目視で空域を監視しており、飛行機も管制官の指示に従う義務があります。空港周辺では管制官の言葉は絶大な力を持ちますが、管制官の意図が正確に伝わらないと、危険な状況に陥りやすくなります。

2025年1月にワシントンで発生した旅客機とヘリコプターの衝突事故も管制官の指示がヘリコプターに正確に伝わっていたのかが焦点になりそうです。



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