今回は近年、日本国内で発生した事故では割と大きめの事故で、2015年4月14日に広島空港で発生したアシアナ航空162便着陸失敗事故を見ていきましょう。
事故の概要
この事故が発生したのは日本時間の午後8時の夜間で霧が部分的に発生している視界の悪い状態でした。韓国の仁川空港を出発したアシアナ航空162便(A320)は、広島空港の滑走路へ向けて高度を下げていました。
広島空港管制官から滑走路への着陸の許可も得て、いよいよ着陸という時に高度を下げ過ぎてしまい滑走路から300m手前にある地上無線施設のアンテナに機体を接触させてしまいました。地上のアンテナ施設を破壊した後、機体はそのまま地面に接地できたものの、進行方向を制御できずに滑走路から左の方へ逸脱し、滑走路から外れた草地で停止。
負傷者は出たものの、幸運にもこの事故による死者はいませんでした。
衝突した地上無線施設アンテナは着陸時に利用する電波を発射するためのもの
この事故では滑走路手前にある高さ6.5mほどの鉄骨でできたアンテナに接触して機体を損傷させました。この施設はローカライザーアンテナと呼ばれ、着陸機に滑走路への方向を電波で示す役割を担っています。天気が悪くパイロットが滑走路を視認しづらい時に特に活躍する無線施設ですが、今回のアシアナ機の着陸の時には利用されていません。
ちなみにローカライザーアンテナは航空機との接触するケースも考慮され、強度は低めに作られています。今回のような接触事故があった時はローカライザーアンテナが壊れることで航空機の損傷を少なく抑えるように設計されているのです。
また赤色に塗られているのは航空機からの視認性を上げて回避しやすくするため。
ローカライザーアンテナ大破。完全復旧まで半年近くを擁した
上の写真は事故で破壊された後のローカライザーアンテナです。飛行機は写真手前から写真奥の滑走路へ向けて飛行している時に機体下部をこのアンテナにぶつけてしまいました。
この写真でもわかるように高さ6.4mのローカライザーアンテナにギア(タイヤ部分)だけでなくエンジン・主翼・胴体・水平尾翼まで損傷しており、少し掠めたというよりもしっかり衝突しています。
滑走路よりもかなり手前で高度を落としてしまっていたのがわかります。
なぜ滑走路の手前で地上施設にぶつかるほど降下してしまったのか
アシアナ機の機長は滑走路への進入中に途中で滑走路を見失ってしまい、本来着陸をやりなおさなければいけない低空を飛行していたにもかかわらず、ルールを破って降下を継続しました。
結果、地上の障害物が見えずにローカライザーアンテナに飛行機のメインギアを衝突させてしまいました。
アシアナ航空に対する賠償など
アシアナ航空は事故直後、一時慰労金として乗客全員に5000ドル(当時約60万円)を支払いを表明。
また韓国の国土交通部は事故を起こしたアシアナ航空に対し、9億ウォン(約9000万円)の課徴金を支払う行政処分を決定しました。
この事故の教訓は基本をちゃんと守ること
この事案はパイロットが滑走路を視認できていないなかで、規程よりも低い高度に降下してしまったことで地上の障害物と衝突してしまいました。ルールは存在する意味が必ずあります。
「これくらいならルールを破っても大丈夫だろう」「いつも大丈夫だから今回も大丈夫だろう」といった甘い考えは、繰り返せば必ず悪い結果を生み出します。今回の機長もいわゆる「魔が刺してしまった」というものでしょう。
しかしこのような甘い考えに打ち克つことができる人間が航空業界における真のプロフェッショナルだと思います。
普段乗っている飛行機が無事に地上に戻ってこれるのは、そういった甘い考えを捨て去ることができているパイロットたちの日々の地道な鍛錬のおかげなのです。
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